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大阪地方裁判所 平成元年(ワ)7534号 判決 1991年9月30日

第一事件原告・第二事件被告 日本包材有限会社

右代表者代表取締役 髙山賢一

第二事件被告 髙山賢一

右両名訴訟代理人弁護士 木村澤東

右同 田村宏一

第一事件被告・第二事件原告 ヨシイ産業株式会社

右代表者代表取締役 吉村伊佐雄

第一事件被告 吉村伊佐雄

右両名訴訟代理人弁護士 川谷道郎

主文

一  第一事件原告日本包材有限会社の請求をいずれも棄却する。

二  第二事件原告ヨシイ産業株式会社の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、第一事件原告・第二事件被告日本包材有限会社に生じた費用及び第一事件被告・第二事件原告ヨシイ産業株式会社に生じた費用の各五分の四と第一事件被告吉村伊佐雄に生じた費用を第一事件原告・第二事件被告日本包材有限会社の負担とし、第一事件原告・第二事件被告日本包材有限会社に生じた費用及び第一事件被告・第二事件原告ヨシイ産業株式会社に生じた費用の各五分の一と第二事件被告髙山賢一に生じた費用を第一事件被告・第二事件原告ヨシイ産業株式会社の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  第一事件

被告らは、原告に対し、連帯して金二〇〇〇万円及びこれに対する昭和六三年一二月八日(訴状送達の日の翌日)から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  第二事件

被告らは、原告に対し、連帯して金四七八万円及び内金二六九万円に対する被告日本包材有限会社は平成元年九月二二日(訴状送達の日)から、被告髙山賢一は平成元年九月二九日(訴状送達の日)から各支払済まで、内金一七五万五〇〇〇円に対する平成三年九月三〇日(本判決言渡日)から支払済まで、いずれも年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  (第一事件)

第一事件は、第一事件原告・第二事件被告日本包材有限会社(以下、「原告会社」という。)が、訴外株式会社ラップス(以下「ラップス」という。)の行うコンパクトディスクの短期間の賃貸業務用(以下、コンパクトディスクを「CD」、短期間の賃貸業務を「レンタル業務」、右レンタル業務に供するCDを「レンタルCD」、CDのレンタル業務を行うことを業とする店を「レンタルCD店」という。)の包装資材等の販売は、第一事件被告・第二事件原告ヨシイ産業株式会社(以下「被告会社」という。)及び被告会社代表取締役・第一事件被告吉村伊佐雄(以下「被告吉村」という。)との共同による不正競争防止法一条一項一号に該当する不正競争行為、原告会社の営業権を侵害する不法行為(ないしは両名がラップスの不法行為を教唆・幇助したもの)、原告会社との継続的製造物供給契約における契約上の義務に違反する債務不履行行為であるとともに、被告吉村は更に取締役の第三者に対する責任(商法二六六条の三第一項)を負うとして、被告両名に対して、損害(被告会社がラップスを通じて原告会社よりも廉価で販売したことに起因する利益減少と、原告会社の取引先の一部がラップスと取引をして原告会社との取引を中止したことに起因する売上減少とに基づく、平成三年六月二六日(口頭弁論終結時)までの少なくとも三〇〇〇万円の逸失利益並びに第二事件についての被告会社の主張と同額の慰謝料及び弁護士費用)合計額の内金の賠償及び民法所定の遅延損害金の支払いを求める(選択的請求)事案である。

1  原告会社は、レコード及びCD等のレンタル業務用の包装資材の販売を業とする有限会社である(争いがない。)。被告会社は、昭和五〇年九月二一日設立で、包装資材及びスチール家具の企画販売等を業とする株式会社である。

2  原告会社と被告会社は、昭和六一年四月ころ、原告会社の注文に応じ被告会社がCD用整理袋(別紙「原告商品目録」①)及びCD用保護袋(同③)を製造して、原告会社に供給し、原告会社が被告会社に代金を支払う旨の契約(製造物供給契約)を締結して履行し、以後徐々に取引品目を拡大して、昭和六三年五月まで、同趣旨の取引を継続した(争いがない。)。

3  原告会社は、昭和六一年四月ころから、レコード、CD及びビデオテープ(以下「ビデオ」という。)のレンタル業務用の各種製品を順次販売し、遅くとも昭和六三年四月(但し、別紙「原告商品目録」⑨は遅くとも平成元年三月)には別紙「原告商品目録」①ないしの商品(以下、「原告商品」といい、うち①ないしを「原告CDレンタル業務関連商品」という。)等を販売し、以後その販売を継続している。

4  遅くとも昭和六三年五月一二日ころ、訴外井上保彦が、「ラップス」という名義で、CDのレンタル業務関連商品等販売の営業活動を開始し、昭和六三年六月一〇日に、ラップスが、ビデオ、CD、衣料用繊維製品及びスチール家具の企画販売等を営業の目的として設立され、被告会社は、その頃から、別紙「被告商品目録」記載(a)ないし(z)の商品(以下、「被告商品」という。)を製造しこれをラップスに売渡し、ラップスは原告会社と同様の営業形態でそれらを販売している。

5  主たる争点

(一) 原告CDレンタル業務関連商品の形態の商品表示性及び周知性取得の有無

原告会社は、原告商品①ないしの原告CDレンタル業務関連商品の形態が不正競争防止法一条所定の商品表示性及び周知性を取得し、とりわけ、原告商品①ないし⑭は、原告会社が考案したCD本体とケースを分離して保管し貸出しをするというシステムに密接に関連するものであって、特にその形態が独創的である旨主張する(もっとも、各商品の形態のいかなる点が商品表示性を有するかについての具体的主張はない。)。

(二) ラップスと被告らは実質的には同一体と認められる関係にあるか否か。

原告会社は、ラップスは被告会社のダミー会社であって、その設立までは、被告らが井上とともにラップスなる名称を用いて被告商品を販売し、その設立後は、被告らがラップスの名義に藉口して被告商品を販売しているものである、仮にラップスの法人格が被告会社とは別個と認められる場合には、被告らはラップスと共同して行為したか、ラップスを教唆又は幇助したものである旨主張する。

(三) 被告らの行為の違法性の有無

原告会社は、被告会社は、原告会社と取引を継続して原告会社から原告商品の製造のノウハウを教示されていたところ(但し、何がノウハウに当たるかについての具体的主張はない)、右教示を受けて知悉するに至った知識を利用して、原告会社の企画・開発にかかる各商品を模倣して、被告商品を製造し、これをラップスの名義で原告会社の取引業者にダンピング販売して原告に損害を与えたものであり、しかも、被告吉村が原告会社を訪れる度に机上の顧客名簿等を盗み見るなどの方法により右取引先を探知したものであるから、被告会社の行為は健全な商取引慣行に反する背信的行為であり、被告吉村は代表取締役として被告会社の右行為を遂行したものであるから、被告らの行為は原告会社の営業権を侵害する不法行為である旨主張する。

(四) 被告吉村の商法二六六条一項の責任の有無

(五) 被告らの契約違反の有無

原告会社は、原告会社と継続的な製造物供給契約関係にあって、原告会社から商品の詳細やノウハウの教示を受け、発注を受けてきた被告らが、原告会社の費用負担で製作した金型を用いて、原告製品を模倣した被告製品を製造販売したものであるから、継続的取引契約関係における背信行為であって、債務不履行責任を負う旨主張する。

(六) 和解契約の存否

被告会社は、原告会社が昭和六三年五月一四日ころ、被告会社に対し、原告会社が第一事件において主張するのと同一の事実を主張して取引停止を申入れ、原告会社と被告会社の間に原告会社主張の「被告会社による酷似商品の製作、販売」に関する紛争が生じたが、同月二五日、原告会社と被告会社間において、従来の取引関係を清算して、原告会社が被告会社に三三三万三二六二円を支払うことにより当事者間の債権債務関係をすべて清算する旨を約して和解したから、仮に原告会社主張の損害賠償請求権が発生したとしても、右和解により消滅した旨主張する。

二  (第二事件)

第二事件は、被告会社が、原告会社が、違法に、第一事件を提訴し、かつ被告会社の約束手形金等請求事件に応訴したことが、原告会社及び原告会社の代表取締役・被告髙山賢一(以下「被告髙山」という。)による共同不法行為であるとして、原告会社及び被告髙山に対し、損害(第一事件の弁護士費用二六九万円、無形損害五〇万円、別訴約束手形金等請求事件の弁護士費用六七万円、無形損害一〇万円及び第二事件の弁護士費用八二万円)の賠償及び民法所定の遅延損害金の支払いを求める事案である。

1  原告会社は、昭和六三年一一月二九日、第一事件の訴えを提起した(争いがない。)。

2  被告会社は、平成元年一月一七日、原告会社に対し、約束手形金等請求事件(当庁平成元年(ワ)第二四九号事件。以下「別訴事件」という。)を提起した(争いがない。)。別訴事件の被告会社の主張は、別紙「別訴被告会社主張」記載のとおりであった。

3  原告会社は、請求棄却を求め、損害賠償金請求に関しては、被告会社主張の数量は、製造依頼の見積もり数量として告知したにすぎないとして、右数量の約定を否認し、かつ損害の発生を争うとともに、損害賠償金請求及び約束手形金請求に関して、第一事件におけると同旨の被告会社の不正競争防止法一条一項一号違反の行為及び不法行為に基づき、被告会社に対し二〇〇〇万円を下らない損害賠償請求権を有するから、右損害賠償請求権と被告会社の別訴事件請求額とを対当額において相殺する旨の意思表示をして争った。

4  もっとも、被告会社は、ラテラルキャビネット及びCD包装資材を他に売却し、結局損害が生じなかったため、別訴事件損害賠償請求を取り下げた(争いがない。)。

5  主たる争点

原告会社の第一事件の訴え提起及び別訴事件の応訴が不法行為に当たるか否か

被告会社は、原告会社は、第一事件で請求し、別訴事件で抗弁として主張する損害賠償請求権が発生しておらず、または仮に発生していたとしても、原告会社と被告会社が昭和六三年五月二五日和解契約をしたことにより消滅して存在しないことを知りながら、又は容易に知りうるものでありながら第一事件の訴えを提起し、かつ別訴事件に応訴したものであるから、各行為は不法行為にあたり、原告会社の代表取締役である被告髙山も、右損害賠償請求権の不存在を知りながら、又は過失により知らずして原告会社に第一事件を提起させ、別訴事件に応訴させたものであるから、原告会社と共同して不法行為を行ったものである旨主張する。

第三第一事件の争点に対する判断

一  争点(一)(原告CDレンタル業務関連商品の形態の商品表示性及び周知性取得の有無)について

1  (原告商品の開発及び販売の経緯)

原告商品の開発及び販売の経緯は、次のとおりと認められる。

原告会社は、昭和六一年四月に設立され、同月に、①CD用整理袋及び③CD用保護袋、同年五月に⑩ディスクベッセル、同年六月一三日にCD仕切板(いずれもタイプは不明)の販売を開始した。原告会社は、当初は、レコードの包装資材を主な取扱い商品としていたが、同年五月か六月ころから次第に商品構成の主体をレコードからCD関連商品に切り換えていき、更に、同年一一月に⑲CD用OPP自在袋、同年一二月に、⑤CD収納キャビネット(別名CD一二〇mmキャビネット塩ビ製NPO―E五一)の販売を開始した。

原告会社は、次いで、昭和六二年二月に⑪NEWディスクベッセル、同年三月に会員証カード、同年四月に⑱テンチャックレンタル通い袋、レコード用レンタル通い袋、レンタル通い袋LP用(ナイロンオックス)、貸出表示シール、貸出表示シール付CD内袋及びビデオ用FCケース、同年五月に⑮コメット及び⑯スーパーコメット、同年六月に⑦CD一二〇mmラテラルキャビネットスチール製NPO―E五〇、同年七月一日に②OPPストック袋の販売を開始した。

原告会社は、更に、昭和六三年二月ころ、CDシングル用品である、④CDシングルバックストック用整理袋(Aタイプ、Bタイプ、Cタイプ、Dタイプ及びEタイプ)、⑥バックストックホルダー保管ケース(別名CD八〇mmキャビネットスチール製NPO―E五四)、⑫CDシングルディスクベッセル、⑬ニューディスクベッセル、⑭ナイロンオックスシングルケース、⑰スーパーコメット及びシングル仕切板の販売を開始した。なお、原告会社は、これらの商品を昭和六二年二月から販売している旨主張するが、右各商品を掲載したカタログの発行時期が昭和六三年二月ころであること、原告会社が昭和六二年一〇月九日に配付したカタログにはCDシングル関連の商品の記載が一切ないこと及びCDシングルが我が国の国内で一般に販売されたのは昭和六三年の初めころからであること(株式会社集英社発行・イミダス一九八九年版一一五七頁)に照らすと、右主張の時期に販売を開始した事実を認めることはできない。原告会社は、次いで、昭和六三年三月に⑧CD一二〇mmキャビネットスチール製NPO―E五二の販売を開始した。なお、原告会社は、同時期に⑨CD一二〇mmキャビネットスチール製NPO―E五三の販売も開始した旨主張し、「Unit」と題するパンフレットには、他の収納器具(⑤ないし⑧)とともに⑨E五三も掲載され、昭和六三年三月一七日付の被告会社から原告会社に対する請求書(甲九の二)には「CD収納庫(スチール)(黒)」及び「同(白)」の代金を請求する旨の記載がある。しかし、被告吉村は、右パンフレット掲載の⑨E五三の写真は、被告会社が撮影した写真であり、ラップスにはカタログ掲載用に提供したが、原告会社にはネガの提供をしておらず、ラップスのカタログから転載したとしか考えられない旨供述しており、これによれば、同キャビネットの発売開始時期は昭和六三年五月ころ以降である可能性があるところ、原告会社は、右パンフレットの頒布時期を何ら主張立証しておらず、かつ右請求書の記載が⑨E五三を意味すると解すべき理由もなく、更に、ラップスのカタログでは(g)ないし(i)の各製品が共通の外観であるのに対して、原告商品は、昭和六三年三月発売の⑧E五二と同年二月発売の⑥E五四が共通の外観を有するのに、⑨E五三がそれらと異なる外観であることは発売時期の相違に起因する可能性があること、原告会社の商品を卸している株式会社アクティブのカタログに掲載された横四列のキャビネットは、⑧E五二を四列に変えたような外観であり、⑨E五三とは相違することに照らすと、⑨E五三が原告主張の時期に発売開始されたと認めることはできず、遅くとも右パンフレットの当裁判所への提出時期である平成元年三月から販売していると認めうるにとどまる。

なお、原告会社は、原告会社の各商品は全国の市場の九〇パーセントを占有している旨主張し、被告髙山も、日本国内のレンタルCD店は、平成二年で約二万店で、うち九五パーセントは、CDをケースとは別に保管して貸し出すシステムを採用しているが、その市場の中で原告の商品は八〇ないし八五パーセントの占有率を有し、レンタルCD店の七、八割に原告の商品が入っており、市場占有率に関する社内資料もある旨供述するが、右市場占有率を裏付ける資料の提出はなく、他方、同被告自身、原告会社の平成二年九月当時の市場占有率は、七、八割というものではなく、惨憺たる状況である旨の供述もし前後矛盾しており右供述はただちに採用できず、結局、原告会社の市場占有の程度及び推移は不明というほかない。

2  (原告商品の販売態様)

原告会社の販売態様は、「代行店」と通称される、全国に一〇の支社を有するトライアングル株式会社等の、レコード及びCD等のソフトの販売店及びレンタル店向け用品の大手卸売会社一〇社や全国で約四〇社の同用品専門の卸売会社に販売するのが大部分であるが(もっとも、全国で百数十社のレンタルCD店に対しては直接販売している。)、原告商品には原告会社の商標や原告会社名はほとんどの場合付しておらず、原告商品のユーザーに対する宣伝活動は代行店や卸売会社がしており、代行店や卸売会社が原告会社作成のカタログを利用して営業活動をする際も、多くの場合原告会社の社名部分に自社のシールを貼って配付し、特に代行店は原告会社の商品ということは隠して原告商品を自社商品として宣伝・販売している。

代行店以外でも、ビデオ及びCDのレンタル業務用の資材の卸し・流通業を営む株式会社ユニオンが、昭和六一年七月ころ、原告から購入した⑩ディスクベッセルと同様の用途を有する商品でCD四枚収納用の商品(商品名「ディスクベッセル」)、貸出表示シールと似た形態の商品(商品名「貸出中カードセット」)、CD用内袋と同一形態の商品(商品名「OPP内袋」)、⑲CD用OPP自在袋と同一形態の商品(商品名「OPP自在袋」)、③CD用保護袋(不織布穴なし)と同一形態の商品(商品名「不織布」)、③CD用保護袋(丸型PE)と同一形態の商品(商品名「丸型U袋」)、①CD用整理袋と似た形態の商品(商品名「盗難予防整理袋Aタイプ、同Bタイプ」)を、「ビデオ・CD用品製造・販売ユニオン」との見出しをつけたパンフレットに掲載して、販売した。

また、株式会社アクティブも、遅くとも平成元年九月ころから、①CD用整理袋に③CD用保護袋不織布穴なしをセットした形態に似た形態の商品(商品名「CD管理袋不織布付」)、③CD用保護袋不織布穴なしと似た形態の商品(商品名「CD不織布」)、そのCDシングル用の商品(商品名「CDシングル不織布」)、③CD用保護袋丸型PEと似た形態の商品(商品名「CDホルダー」)、そのCDシングル用の商品(商品名「CDシングルホルダー」)、④CDシングルバックストック整理袋中のAタイプ及びBタイプとほぼ同一の形態の商品(商品名「CDシングル用管理袋不織布付」)、⑥バックストックホルダー保管ケース(「CD八〇mmキャビネットスチール製NPO―E五四」)と同一形態の商品(商品名「CD八〇mmキャビネットAC―〇三〇」)、⑧CD一二〇mmキャビネットNPO―E五二と同一形態の商品(商品名「CD一二〇mmキャビネットAC―〇三二」)、右では三列の引出しを四列に増やした形態の商品(商品名「CD一二〇mmキャビネットAC―〇三一型」)、⑪NEWディスクベッセルと似た形態の商品(商品名「CD貸出ケース」)、⑲CD用OPP自在袋と似た形態の商品(商品名「CD用OP袋」)、⑳OPP自在袋と似た形態の商品(商品名「CDシングル用OP袋」)及びCD仕切板と似た形態の商品を原告から購入したうえ、自社商品として、レンタルCD店に販売している。

また、株式会社ナガオカも、ナガオカのブランド名で原告商品の一部を販売した時期があった。

3  (原告商品以外の同種製品の販売)

信栄株式会社は、昭和六一年二月以前から、⑲CD用OPP自在袋と似た形態の商品を「CD用自在袋」という商品名で販売し、更に遅くとも昭和六二年中ごろから、原告商品を真似て、原告会社とは無関係に③CD用保護袋の不織布製のものと似た形態の商品を「CD用保護袋」という商品名で、①CD用整理袋と似た形態の商品を「CD用OPP外装」という商品名で販売している。

株式会社フジコウは、遅くとも昭和六二年七月には、①CD用整理袋と似た形態の商品(商品名「CDストック袋塩ビ」)、③CD用保護袋不織布穴なしと似た形態の商品(商品名「CD内袋不織布」)、③CD用保護袋丸型PEと似た形態の商品(商品名「CD内袋HDU型」)、⑩ディスクベッセルのフック無しの型と似た形態の商品(商品名「CDファイルブルー」)、⑲CD用OPP自在袋と似た形態の商品(商品名「スティック袋」)及びCD用内袋と似た形態の商品(商品名「PP袋CD角切り」)などの各種のCDレンタル業務用商品を、原告会社とは無関係にレンタルCD店に販売し、更に遅くとも平成元年九月ころには、④CDシングルバックストック整理袋中のAタイプ及びBタイプと似た形態の商品(商品名「CDSストック二重袋」)、⑦CD一二〇mmラテラルキャビネットスチール製NPO―E五〇と似た形態の商品(商品名「CDキャビネット」)及び⑪NEWディスクベッセルと似た形態の商品(商品名「CDファイルアコーデオン式」)も販売している。

株式会社エクセルは、遅くとも昭和六二年一一月頃に①CD用整理袋Cタイプと似た形態の商品(商品名「CD用ストック袋」)、③CD用保護袋不織布穴なしと似た形態の商品(商品名「CD用不織布保存袋」)、⑪NEWディスクベッセルと似た形態の商品(商品名「CDホルダーケース(一一枚用)」、⑲CD用OPP自在袋と似た形態の商品(商品名「OP袋シール付CD用」、「OP袋シール付CD二枚用」)や、商品名「CDジャケット」、「CD用PP内袋」、「CD・Pケース(一枚用、二枚用、四枚用)」、「CD管理カード」、「CDレンタルケース(二枚用、四枚用)」、「CDキャリングケース(三枚用)」、「CDレンタルストックケース」、「CD用仕切り箱」等の各種のCDレンタル業務用商品を原告会社とは無関係に販売しており、同社は、更に、遅くとも平成元年三月ころには、⑦CD一二〇mmラテラルキャビネットスチール製NPO―E五〇と寸法が同一で似た形態の商品(商品名「システムキャビネット」)、⑳OPP自在袋と似た形態の商品(商品名「CDシングル用OP袋」)、CD仕切板BOXタイプと似た形態の商品(商品名「仕切り箱(カバー付)」を販売している。

株式会社ナガオカも、右と同じころから、右株式会社エクセルの各種商品を、エクセルのブランドで販売している。

レンタルショップ用品総合商社である株式会社オーブアルも、遅くとも昭和六二年一二月頃に、①CD用整理袋と似た形態の商品(商品名「CDホルダー」)、⑩ディスクベッセルのフックなしのものと似た形態の商品(商品名「CDホルダーキャリー」)、⑩ディクスベッセルのフック付きのものと似た形態の商品(商品名「CDホルダーキャリーエコノラインMB」)、⑪NEWディスクベッセルと似た形態の商品(商品名「CDシャトル」)や、⑮コメットや⑯スーパーコメットと同様の用途に供する商品(商品名「ナイロンキャリーバッグMB」)等の各種のCDレンタル業務用商品を販売している。右商品の一部は同社に原告会社が販売したものである。

株式会社日新も、遅くとも平成元年四月ころには、⑪NEWディスクベッセルと似た形態の商品を「キャリングケース(アコーディオン式タイプ)」という商品名で販売するなど、各種のCDレンタル業務用製品を原告会社とは無関係に販売している。

4  原告会社の主張

原告会社は、原告CDレンタル業務関連商品の形態の商品表示性及び周知性取得に関し次のとおり主張する。

従来のレンタルレコード店においては、レコード本体をレコードジャケットと一体に陳列しており、レンタルCD店においても、昭和六一年四月ころ以前は同様にCDをそのケースとともに陳列するのが通常であったが、CDはレコードに比して形状が小さいために盗難が頻発するという問題を生じていた。原告会社は、この盗難防止のために、客用の陳列棚にはCDを抜き取ったケースのみを陳列し、CDは別途保管しておき、顧客は借り受けを希望するCDのケースを店員に提示し、店員はそのケースに該当するCDを別途保管場所から取り出してこれを貸与するというシステムを構想し、この構想実施のため、ケースから取り出したCDを包装するために①ないし③の各商品を開発、販売したところ、当初は、ケースからCDを取り出して右各袋に入れるのは面倒であるとの反応が多かったものの、次第に盗難予防という考え方が理解されるようになり、販売開始から半年ないし七、八か月経過後次第に売行きが向上し、原告会社は、①ないし③の各商品を昭和六一年四月から平成元年七月までに大手卸業者を通じて全国で約二〇〇〇万枚販売したが、当時この種商品の開発・制作・販売をしていたのは原告会社だけであった。

レンタルCD店において、CDをケースから取り出し、別個に管理し包装するという発想それ自体が極めて斬新かつユニークなものであり、原告CDレンタル業務関連商品は全く新たな機能・用途に着目して企画開発したもので、原告会社が発売する以前には同種の商品は市場に存在しなかったから、原告CDレンタル業務関連商品は当然に他に類を見ない独創的・特徴的な形態を有し、それら(とりわけ①ないし③)の出所は原告会社以外にありえず、それらが原告会社のものであるとの認識が業界内部で行き渡っていた。

また、原告会社は、右のCDとケースを別々に管理するという基本構想に沿って、原告CDレンタル業務関連商品を開発したものであり、これらは、レンタル業務においてその本来的な効用を発揮し、営業のために必要な包装資材一式という形で販売されて、それぞれ有機的に関連しあっており、しかも大量に売れたから、原告CDレンタル業務関連商品全ての形態が出所表示機能を備えるに至っている。

5  右原告会社の主張の当否について

(一) 《証拠省略》によれば、原告CDレンタル業務関連商品は、原告会社が、被告髙山が着想した、盗難防止のために、CDをケースから取り出してケースのみを陳列し、CDは別個に管理、包装し、貸出すというシステムに関連して順次販売したものであり、原告会社が昭和六一年四、五月に①CD用整理袋、③CD用保護袋や⑩ディスクベッセルを販売した当時は、①や③と同様の用途に供する製品は市場に存在せず、⑩と似た形態の製品はフロッピィディスク用には存在したものの、CDレンタル店向けに販売したのは原告会社が国内で最初であったと認められる。

(二) しかしながら、前記3項で認定のとおり、被告会社が被告商品を販売する以前に、前示の各社が、原告会社とは無関係に、CDをケースから取り出してケースのみを陳列し、CDは別個に管理、包装し、貸出すというシステムに関連する各種商品を販売しており(特に、原告会社が、ケースとCDの別保管というシステムに関連する中核的商品であって独創性が高い旨主張する①CD用整理袋及び③CD用保護袋は、信栄、エクセル、フジコウの三社が同一の用途に供する商品を販売しており、原告会社が準中核的商品であると主張する⑩ディスクベッセルはフジコウが、⑪NEWディスクベッセルは、エクセルが同一の用途に供する商品を販売していた)、しかも、その中には、被告商品が形態の点で原告CDレンタル業務関連商品と類似する程度と同じ程度に原告CDレンタル業務関連商品と類似するものが多数存していたのであるから、原告会社が販売を開始した当時に同種商品が存しなかったとしても、被告会社が被告商品を販売した当時において、原告主張の如く「原告CDレンタル業務関連商品は当然に他に類を見ない独創的・特徴的な形態を有し、それらの出所は原告以外にありえない。」ということはできないうえ、前記2項で認定のとおり、原告CDレンタル業務関連商品自体も、原告会社が直接レンタルCD店に販売する少数の他は、大多数代行店などの原告会社から製品を購入した会社が自社の企画・製造・販売する商品として、しかも、会社によっては原告会社とは別の商品名をつけて販売していたのであるから、需要者であるレンタルCD店としては、同一又は類似の形態の製品が多数の業者を出所として販売されていると認識し得るにすぎず、原告CDレンタル業務関連商品の形態の物が、特定の企業ないしは何らかの事実関係、契約関係等によって関連づけられる企業からなるグループから発売されていると認識する可能性は少なく、形態により原告CDレンタル業務関連商品の出所を他の商品の出所と区別することは困難であると認められるから、被告会社が被告商品を販売した当時、原告CDレンタル業務関連商品の形態が取引に際しての商品の出所の認識手段となっていたとは到底認められない。それ以後も、3項で判示したとおり、更に多くの種類の同一又は類似の形態の商品が他の業者から販売されているから、なおさらのことである。また、取引業者については、原告会社と直接の取引がない業者に関しては右と同様であり、前記の原告会社と直接取引をしていた代行店や卸売会社の関係では、原告会社もラップスもそれぞれ自社製品であることを明示して営業活動をしていたのであるから、被告商品が原告CDレンタル関連商品と混同されるおそれがあるとは認められない。甲一三は右の事実に照らして採用できない。

したがって、不正競争防止法一条一項一号に基づく請求は理由がない。

二  争点(二)(被告らとラップスの関係)について

井上保彦は、被告吉村の長女井上佐智子の夫で、昭和六三年三月まで被告会社に勤務して営業を担当しており、同月退社するとともに、ラップス名義で被告商品の販売準備を始め、被告会社の協力を受けて、同月末ころにラップスのカタログを作成した。ラップスの代表取締役には井上保彦が就任し、井上佐智子も取締役に就任している。そして、被告会社は、右井上保彦の営業に積極的に協力し、資金の援助をするとともに、被告商品をラップスに一手販売し、被告吉村がその販売について積極的に意見を述べるなどし、更にラップス設立に際しても設立資金二〇〇〇万円の九五パーセントを被告会社が出資し、現在はラップスの株式の一〇〇パーセントを有する株主であって、被告会社及びその代表取締役・被告吉村は、右井上及びラップスに強大な影響力を有している。

したがって、ラップスの営業行為も被告会社の営業行為と同視すべきであり、以下被告会社の責任を考えるに際しては、ラップスの行為も被告会社の行為に含めた上で検討することにする。

三  争点(三)(被告らの行為の違法性)及び争点(四)(被告吉村の取締役としての商法二六六条の三第一項の責任の有無)について

被告会社は、原告からの注文により、①CD用整理袋(Aタイプ、Cタイプ及びPPカラータイプ)、②OPPストック袋、③CD用保護袋(全てのタイプか一部かは不明である)、⑤CD収納キャビネット、⑥バックストックホルダー保管ケース、⑦CD一二〇mmラテラルキャビネットスチール製NPO―E五〇、⑧CD一二〇mmキャビネットスチール製NPO―E五二、⑩ディスクベッセル(但し、型は不明)、⑪NEWディスクベッセルと蛇腹部分以外は同様である商品、⑮コメット、⑲CD用OPP自在袋、CD用内袋、貸出表示シール、CD仕切板の各タイプ、ビデオ用FCケース、会員証カード、VHSダミーなどの製造に従事し、それらの金型は被告会社の協力工場で作成したが、その金型の費用は大半原告会社が支払ったことが認められる。

原告会社は、被告会社に対し、原告会社との取引期間中に原告会社より注文の右各商品の製造方法、材料及び商品知識等のノウハウを教示し、注文外の商品についても取引の過程で原告各製品の形態を知得せしめたところ、被告会社は、それらの取引過程で得た知識を利用して被告商品を製造販売したから、被告会社の右行為は違法である旨主張し、《証拠省略》によると、原告会社が被告会社に原告商品の製造を注文する際には、原告会社が市販の商品を見本に持参してそのとおりの物ないしそれの改良品を作るように指示するなど、被告会社に対してどのような商品を作るかという完成品の形態を指示したことは認められるけれども、それら商品の製造上の技術面について、公然と知られていないノウハウ等の技術情報を具体的に教示したことを認めるに足りる証拠はない。かえって、原告商品は、全て、市販の現物さえ見れば、公然と知られていないノウハウ等の技術情報を必要とせず、当業者であれば通常有する技術情報のみで容易に模倣して同一ないしは類似の形態の商品を製造できる程度のものであり、現実に、原告商品の多くについて、他業者によって形態のよく似た同種商品が製造販売されていること(原告CDレンタル業務関連商品に関しては前記一3、その他の製品に関しては乙二ないし五、一六、一七)に鑑みると、被告会社が原告商品と形態のよく似た商品を製造販売したからといって、その行為が原告会社に対する不法行為を構成するとは認められない。

また、原告会社は、被告吉村が原告会社を訪れる度に机上の顧客名簿等を盗み見るなどの方法で原告会社の取引先を探知し、その情報を利用して原告会社の取引先にラップスのカタログを頒布するなどの違法な営業活動をした旨主張するが、右主張事実を認めるに足りる証拠はない。この点について、被告髙山は、被告会社の従業員であった井上が原告会社に来た際に出荷される商品の会符を抜いたのではないかと思う旨供述するが、右供述は単なる憶測にすぎず、にわかに採用できない。

また、原告会社は、被告会社が原告会社の取引業者に被告商品をダンピング販売する違法行為をした旨主張し、ラップスが当時の原告会社の販売価格よりも一割ないし二割程度安い価格で被告商品を販売したことは認められるけれども、右販売価格が公正な競争を妨げるような不当に低い価格のダンピングであることを窺わせる事情は認められず、自由競争を基本原則とする現在、被告会社が原告会社よりも安価に原告会社の取引先に同種製品を販売したからといって違法ということはできない。

したがって、不法行為に基づく請求は理由がなく、被告吉村の取締役としての商法二六六条の三第一項に基づく請求も同様に理由がない。

四  争点(五)(被告らの債務不履行責任の有無)について

被告会社については、前判示のとおり、原告商品と同一ないしは類似の形態の製品を製造販売することは、特に公然と知られていないノウハウ等を必要とせず、当業者であれば、市販されている原告商品の現物を見さえすれば、容易にこれをなし得るし、また、現実に多数業者が原告商品と類似の形態の商品を製造販売し原告会社と競争関係にあった状況下において、被告会社が原告会社と継続的な製造物供給契約関係にあったからといって、格別の合意もないのに、原告商品と同一ないし類似の形態の商品を製造販売しない契約上の義務を負担しなければならないと解すべき理由はない(格別の合意があった旨の主張・立証もない。)

また、原告会社は、被告会社が原告会社の費用で製作した金型を用いて被告商品を製造販売した旨主張する。確かに原告会社のカタログやパンフレットとラップスのカタログに掲載の各写真を比較すると、被告商品の中には、形態において被告会社が製造していた原告商品とよく似たものがあることが認められるが、被告吉村は、原告会社の費用負担にかかる金型は使っていない旨供述しており、かつ、カタログ等の写真からも、そのうちの多くは形態に部分的な差異があることが認められ、またカタログの写真のみでは細部の比較は不可能であるうえ、細部の形態において同一であっても別に作成した金型で製造した可能性を直ちに排斥することもできないから、右カタログ等の写真の対比から、同一の金型から作成されたものと推認することもできず、結局、原告会社の右主張事実を認めるに足りる証拠はないというほかない。

したがって、債務不履行に基づく請求も理由がない。

被告吉村については、被告吉村は契約の当事者ではないから、被告吉村自身の債務不履行責任を問う点は主張自体失当であり、商法二六六条の三第一項の責任の主張と解しても、右のとおり被告会社の債務不履行を認めることができないから、理由がない。

五  結局、原告会社の請求はすべて理由がない。

第四第二事件の争点に対する判断

一  原告会社が第一事件の訴えを提起したことが不法行為にあたるか否かについて

民事上の紛争の当事者が当該紛争の解決を裁判所に求めて民事訴訟を提起することは本来適法な権利の行使であるから、その提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者が主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのに敢えて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当であり、応訴が相手方に対する違法な行為といえるのも、同様に応訴が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解される。

そこで、この観点から検討すると、原告会社代表者・被告髙山は、第一事件の訴えを提起するに際して、他の営業者による同種商品の販売状況を十分に調査しておらず、かつ原告会社の商品の販売態様が商品表示性を持ちうる態様か否かについての考察も不十分であったことは認められるが、原告会社ないし被告髙山が、原告会社が第一事件で主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くことを知っていたと認めるに足りる証拠はなく、また、商品の形態が商品表示性及び周知性を獲得しているか否かの判断は、市場の状況、商品の販売時期、数量、宣伝広告、他の営業者による同種商品の販売状況などの諸般の事情の総合考慮によりなされるものであって容易に判断できる事項ではなく、第一事件の如く継続的な契約関係にあったものの行為についての不法行為責任及び債務不履行責任の成否も、必ずしも容易に判断できる事項ではないところ、前記認定の原告会社の原告商品の販売状況やラップスによる被告商品の販売に至る経緯に照らすと、原告会社ないし被告髙山において、被告会社が不正競争防止法、不法行為ないしは債務不履行に基づく責任を負うと判断して第一事件の訴えを提起したことが、通常人であれば容易に事実的、法律的根拠を欠くことを知りえたのに敢えて訴えを提起したといえる場合にあたるとも認められない。

また、被告会社主張の和解の点については、井上がラップス名義で被告商品を販売するための営業活動を行ったことに起因して、原告会社が、昭和六三年五月一四日ころ、被告会社に対して取引停止を通告すると共に、「ラップスなるダミー会社を設立して原告商品に酷似した商品をカタログに掲載し、原告会社の販売価格よりも安価な見積書を原告会社の取引先に流布したことにより、原告会社は被告会社からの仕入商品の販売が不能となり、販売価格の再設定など多大な迷惑を被ったので、五月二五日が履行期の被告会社に対する買掛金債務の支払いは保留し、(1)取引上生じた金型、製版等の原告資産の速やかな返却、及び(2)被告会社からの仕入れ商品の残量の即日返品の条件を実行すれば支払いに応じる」旨の通知をし、原告会社は、同月二〇日、被告会社から仕入れた商品を返品し、同月二五日には、原告会社と被告会社が、右返品分についての製造物供給契約の解除を合意し、被告会社としては、右返品中には約二年前に納入した商品、破損した商品及び被告会社が納入したものでない商品がある点で不満があったものの譲歩して、原告会社の買掛金支払債務八八二万八四七五円と返品した商品の代金五九三万四八一三円の返還債務とを相殺し、更に右返品商品のうちの一部を代金四三万九六〇〇円で原告会社が買い戻して代金債務を相殺のうえ、原告会社が被告会社に対して残額の三三三万三二六二円の支払義務があることを相互に確認して、原告会社が、被告会社に、額面が三三万三二六二円、振出日付が昭和六三年五月三一日付の先日付小切手一通及び別訴事件で問題の約束手形三通を支払いのために振出交付したこと、右とは別に、同年六月二〇日、七月二〇日及び八月二〇日を支払期日とする額面合計約二〇〇〇万円の約束手形については、原告会社はいずれも支払っていることが認められるが、右昭和六三年五月一四日ころになされた通知では損害賠償請求権に言及されていないうえ、五月二五日の合意は、取引の終了を合意するとともに、従前の継続取引に関して履行期の到来した債権債務及び返品に伴う債権債務の精算を内容とするものであり、その際に、原告会社の被告会社に対する損害賠償請求権が話題に上ったことを認めるに足りる証拠もないから、右の事実関係から、原告会社及び被告会社が被告商品の販売による損害賠償請求権の存否に関する争いを止める旨の和解をしたと推認することはできず、他に被告会社主張の和解契約の成立を認めるに足りる証拠はない。したがって、和解契約の成立を理由とする被告会社の主張は理由がない。

その他の理由で、第一事件の訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認めるに足りる証拠もない。

二  原告会社が別訴事件に応訴したことが不法行為を構成するか否かについて

原告会社が、別訴事件において、被告会社の不正競争防止法及び不法行為に基づく損害賠償請求権を自働債権として相殺の主張をしたことが違法と認められないことについては右と同様であり、また、被告会社が、ラテラルキャビネット及びレコード包装資材を他に売却して損害が生じなかったために同事件において損害賠償請求を取り下げたことに照らすと、原告会社の債務不履行により二一九万円の損害が発生した旨の主張には理由がなかったと認められるから、結局、原告会社が別訴事件に応訴したことが裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認めることはできない。

三  したがって、被告会社の請求も理由がない。

(裁判長裁判官 庵前重和 裁判官 長井浩一 辻川靖夫)

<以下省略>

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